東京高等裁判所 昭和62年(ネ)247号 判決 1988年3月30日
控訴人
株式会社ジャックス
右代表者代表取締役
山根要
右代理人支配人
今修司
右訴訟代理人弁護士
鈴木明
被控訴人
赤坂正
被控訴人
赤坂一
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士
福田盛行
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対し各自金一〇〇万二二二一円及びこれに対する昭和六一年二月二八日から完済に至るまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、当審における主張及び証拠につき次の一、二を付加するほか、原判決事実摘示(判決書四丁表末行から同丁裏二行目までを削る。)のとおりであるから、これを引用する。
一 当審における主張
被控訴人ら代理人は、「訴外株式会社タイガーエンタープライズは、自己の責めに帰すべき事由によって被控訴人赤坂正に対し本件自動車を引き渡すべき債務と同自動車について被控訴人正名義に所有権移転登録をすべき債務の履行を不能ならしめたので、被控訴人正は、右訴外会社に対し昭和六二年一一月二八日到達の書面により本件自動車売買契約を解除する旨の意思表示をした。本件売買契約及びクレジット契約においては、住友生命が被控訴人正に売買代金を貸し付け、控訴会社が被控訴人正の債務を保証するという仕組みが採られているが、控訴会社は、住友生命と被控訴人正との間の消費貸借契約の締結から割賦弁済金の受領までをすべて取り仕切り、販売業者たる訴外会社に対する商品代金の交付をするなどあたかも割賦購入あっせん業者としての役割をしており、住友生命は控訴会社の資金調達先にすぎないのであるから、本件は割賦販売法第二条第三項第二号の割賦購入あっせんに該当する。したがって、被控訴人正の訴外会社に対する前記売買契約解除による代金債務の消滅の抗弁は、同法第三〇条の四第一項により控訴会社に対抗することができるので、右抗弁事由を援用する。なお、原審以来主張した同時履行の抗弁は撤回する。」と述べ、控訴代理人は、「被控訴人らの右主張事実のうち被控訴人正が訴外会社に対し売買契約解除の意思表示をしたことを除きその余の事実は否認する。本件売買契約につき割賦販売法の適用があるとの主張は争う。」と述べた。
二 当審における証拠<省略>
理由
一引用に係る原判決請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
二しかるところ、控訴人は、被控訴人正が住友生命に対する債務の支払を怠ったので控訴会社が代わって弁済し被控訴人正に対し金一〇〇万二二二一円の求償金債権を取得したと主張するのに対し、被控訴人らは、訴外株式会社タイガーエンタープライズがその責めにより売買自動車の引渡し等の債務の履行を不能ならしめたので売買契約を解除したから、被控訴人正の右訴外会社に対する売買代金債務はなく、控訴会社の被控訴人らに対する求償債権は発生しないと主張するので、まず、売買契約解除の点について判断する。
前示争いのない事実に、<証拠>を総合すると
1 被控訴人正は、昭和六〇年三月一日、訴外株式会社タイガーエンタープライズに対しフォルクスワーゲン(七八年式、登録番号横浜五三な二九四四)一台の買受けを申し込み、代金一三〇万円のうち頭金三〇万円を除く一〇〇万円につき同会社のあっせんで控訴会社を介し住友生命から前示請求原因1記載のとおり金員(もっとも借受金は、一〇〇万円に対する手数料が加算され一一八万八八五五円となる。)を借り受け、同金員は控訴会社を経由して直接訴外会社に支払われた。
2 被控訴人正の右借受金の第一回返済期日は同年四月二七日であったが、その前日の二六日になっても買い受けた自動車の引渡しがなかったので、被控訴人正は、同日、訴外会社の事務所に同会社社長鈴木純一を訪ね本件自動車の引渡方を求めた。これに対し、鈴木は、同会社の社員で本件自動車の販売担当者西村公延に対し同日中に自動車を被控訴人正に引き渡すよう命じその旨の念書を書かせた。
3 そこで、被控訴人正は、同日夜自宅で待機していたところ、西村が訪れ「自動車は近くの駐車場に持ってきたが、もう一度出直してくる。」と行っただけで帰り、その後は自動車の引渡しはもちろんのこと、自動車の鍵、車検証の引渡しもしなかった。
4 その後、西村は、右自動車を訴外長嶋に引き渡し、同人名義に所有権移転登録がされた。
5 被控訴人正は、訴外会社に対し昭和六二年一一月二九日到達の内容証明郵便をもって、同社の自動車引渡し及び登録名義変更に関する債務不履行(履行不能)を理由に本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
以上の事実を認めることができる。前掲被控訴人正の本人供述(当審第二回を除く。以下同じ。)によれば、被控訴人正は、右認定2のように本件自動車の引渡しを求めるため訴外会社を訪ねた昭和六〇年四月二六日より前に、二回ばかり本件自動車に乗って走行したことのあることが認められるけれども、同供述によると、これは、試乗のため西村から一時借りたにすぎず、その都度西村に返していることが認められるので、被控訴人正が前に二回ばかり本件自動車に乗ったことがあるからといって、自動車の引渡しがあったものとすることはできないし、<証拠>によれば、被控訴人正は、自動車引渡未了を訴外会社に訴え、その結果社長自身が念書を西村に書かせているという右認定2の経緯から借受金返済の取立てもあるまいと思っていたところ、その後初めの三回分の返済が被控訴人正の銀行預金からいわゆる自動引落としの方法によって支払われてしまったので、訴外会社に掛け合って四回目以降は訴外会社に支払わせたことが認められるので、初めの三回分を被控訴人正が支払ったからといって、自動車の引渡しがあったものとすることもできない。なお、右証人鈴木の証言中には右1ないし5の認定に抵触する部分があるけれども、これはたやすく措信することができず、ほかには、この認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、被控訴人正は訴外会社と本件自動車につき売買契約を締結したが、訴外会社の債務不履行(履行不能)により右売買契約は有効に解除されたものとするに十分である。
三問題は、本件自動車売買契約が有効に解除されたことをもって、被控訴人正が控訴会社に対抗することができるかどうかであるが、前示争いのない請求原因1ないし3の事実に、<証拠>によれば、被控訴人正は、訴外会社から本件自動車を購入するに当たり、その代金の一部につき住友生命からいわゆる消費者ローンの貸付融資を受けて支払うこととするとともに、住友生命に対する借受金の返済については、その連帯保証を訴外会社に委託したものであるところ、住友生命の貸付金は、前認定二1のように控訴会社を経由して直接訴外会社に交付されて代金の支払に充てられ、その取立ては、分割払(期間三年、回数三六回)の方法で控訴会社が住友生命の代理人としてすることになっていたが、最初の七回分が支払われた後は全くその支払がなかったので、控訴会社においては、被控訴人正が期限の利益を喪失したものとしてその借受金残額を代位弁済し、その求償債権に基づき本訴請求に及んだものであることを認めることができ、この認定に反する証拠はない。
右認定の取引形態は、控訴会社を割賦購入あっせん業者とし、住友生命から提供された資金で行う割賦販売法第二条第三項第二号の割賦購入あっせんである(被控訴人らは、このように主張する。)かのごとくである。しかしながら、被控訴人正が訴外会社から購入した本件自動車の代金(の一部)は、控訴会社が立替払をしたのではなく(代金立替払に関する約定は、甲第一号証の契約条項中には記載されていないし、他にこの約定を認めるべき証拠もない。)、住友生命が被控訴人正に融資する貸付金を訴外会社に交付するという仕組みで支払われており、控訴会社の役割は右融資の関係において被控訴人正から委託された連帯保証人であるから、控訴会社を割賦購入あっせん業者に擬することはできず、右の取引は、住友生命を割賦購入あっせん業者とする同号所定の割賦購入あっせんに該当するものである。
控訴会社は、右のように割賦購入あっせん業者の立場にないとはいうものの、被控訴人正の連帯保証人として、代位弁済をして求償権を行使する場合には、また格別であって、右に認定した本件の事実関係からすれば、割賦購入あっせん業者の立場にある住友生命自身が貸金債権を行使する場合に準じて考えなければならない。けだし、控訴会社は、法形式的には、連帯保証人として被控訴人正とともに住友生命に対する共同債務者であるけれども、実質的には、被控訴人正が分割払をしなくなったときは、代位弁済をした上、住友生命に代わる債権者として被控訴人正に対することになるからであり、しかも、前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨から認められるように、このような役割分担は、当初から住友生命との間で予定されていたからである。そうであれば、被控訴人正は、住友生命に対抗できたのと同様に、控訴会社に対しても、販売業者たる訴外会社に対して生じている事由をもって支払拒絶の抗弁とすることができるものと解すべきである(同法第三〇条の四の類推適用)。
そうすると、訴外会社との間の本件自動車売買契約が前示二のとおり有効に解除されている以上、被控訴人正は、分割払のいずれの支払分の請求に対しても支払を拒絶することができるものであり、その一括支払を求めることに帰着する控訴会社の被控訴人正に対する請求は、支払拒絶の抗弁により理由がないことになる。
被控訴人正に対する請求が右のように理由がない以上、保証債務の付従性により、被控訴人一に対する請求もまた理由がない。
四よって、控訴人の本訴各請求を棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第九五条及び第八九条に従い、主文のように判決する。
(裁判長裁判官賀集唱 裁判官安國種彦 裁判官伊藤剛)